1. スループットを測定する意味
以前「ローカル5Gのスループットを計算してみる」という記事を書きましたが、今回は実際の測定の記事を書いていきます。
スループットを実際に測定する意味ですが、以前も記載した通り単純にスループットがどの程度になるかで扱えるサービスが違ってくるので、今検討しているサービスが本当に使えるかどうかの判断基準として使用できます。そして無線通信では机上と現実は違う結果が出ることが往々にして起こりうる為、計算だけではなく実際に計測するというのが重要になってきます。
例えば工場にローカル5Gを設置することを考えたとします。
工場には金属でできた物がたくさんあると思います。そういった物は遮蔽物となり、もし遮蔽物の影に端末を置いた場合、電波を遮断する為思ったような電界強度で端末まで電波が届かないなんて事象が発生します。
また動くものもたくさんあると思います。そういった物が瞬間的に遮蔽物となり電波を遮断してしまうようなことも考えられます。
アンテナの配置によっては電波の反射により一部分に電波が集まってしまい干渉が発生、電波の品質が悪くなりスループットが出ないなんてこともあります。
こういった事象が起きていないかどうか確認をするためにも実際に測定をおこなう必要があるのです。
よく携帯電話のパンフレットや通信回線のパンフレットを見ていると「ベストエフォート」という言葉が書いてあったりしますが、机上の計算はあくまでベストエフォートを求めるだけにすぎず、実際に使った場合にどこまでスループットが出るのかという部分を把握しておくのは本格導入にあたって大事なことなのです。
2. スループットを測定してみよう
2-1. スループット測定方法
実際にスループットを計測してみよう!と思っても何をもってスループットがいいのか悪いのか、環境がいいのか悪いのかがわからないと思います。
スループットの計測についてどのように進めてどこに注目すべきか、どのようにスループット測定を進めるかを簡単に書いていきます。
① まず基準となる値を計測する。
基準となる値は現在その装置を使って出せるベストな数値がいいと思います。
電波暗室や外部の影響を受けないような環境が用意できればベストですが、そのような環境がないほうが普通だと思います。
そういった場合、アンテナと端末の間に障害物がない直接波が受けられる状態を作り、なるべく反射の影響を受けないような周りが少し開けている環境で通信をしてみるのが良いです。
またインターネット上のスループットテストを利用するよりiperfサーバ等を自社環境に用意しネットワーク環境もなるべく他の影響を受けないように測定しましょう。
② 基準となる場所の電波状況等の数値を確認しておく。
スループットを図るのはもちろんですが、基準となる値を測るときには状況を記録しておくのも大事です。
出来るだけ多くの状況を把握しておくことが望ましいですが、基本的には最低限、下記の表に出てくるものを測っておくといいでしょう。
本当にざっくりとした説明で細かいことについては記載はしていません。
(記載すると1項目でかなりの記載量になってしまうので・・・)
計算式や単位で何が違うのかと気になった方は是非調べてみてください。
上記の項目であれば弊社も販売しているK5G-C-100Aで簡易的なモニタが出来ますので興味があれば是非購入をご検討ください。
③ 実際に測定するときの注意
測定を行う時の注意点ですが、不要な遮蔽物、つまり人体には要注意です。
人体というのは7割が水分で出来ている為、電波をよく遮断します。
下記は例で実際に人体が遮蔽になるかどうか、手で端末をくるんでみた時のRSRPの値を取ってみました。
一旦手で包まない状態で、アンテナから約3mぐらいの距離でRSRPが-71dBmとなっています。(写真の関係上数値が見にくいですが・・・)
これを手で包んで電波を遮蔽すると
RSRPが11dBm下がりました。-82dBmです。
人体でもこのような影響があったりします。
ある程度アンテナから離れた状態で、アンテナに対して後ろを向いて端末を持って測ったり人体に近いところで測ってしまうと測定者そのものが遮蔽物となってしまいます。
なるべくであれば遮蔽の影響を小さくするように人体から30cm以上離した状態で地面から1m、もしくは実際に使う場所程度まで高さを調整して計測をしましょう。
2-2. 実際に測定
では実際に測定をしてみます。せっかくなので仮に「会議室にお茶や水を運ぶロボットをローカル5Gで管理する」というのを想定して実施していきたいと思います。
弊社の社内会議室周辺はこのような状況です。
ざっくりですが大体こんな環境です。
お茶を左側の廊下から持ってきて、各小会議室にお茶を運んで、ローカル5Gラボ、大会議室の前を通り、また廊下に抜けていくというルートを想定したとします。
この時に機械と人がぶつからないように4K動画でリアルタイム監視をしたとします。
また複数台を一斉に動かす運用を考えているとしましょう。
アンテナはローカル5Gラボに設置してあって、ローカル5Gラボの壁面はガラス、それ以外は通常のオフィスでよく見られる壁とします。
それでは想定が終わったところで測定ですが、こういう場合はまず測定ポイントを事前に決めてしまいます。
まずは廊下、ここは想定ルート上で一番遠い場所になるので測定を行うべきでしょう。
次にアンテナが設置してあるラボから対角線上にあるスペース、ここも会議室が遮蔽になるのでどの程度スループットが確保できるか見ておくべきです。
それ以外はスループットや色々な値がどう推移するのかを見る為に四隅にポイントを打つようなイメージで測定ポイントを決めます。
このような図になると思います。
ではまずローカル5Gラボの中で基準となる値を測定します。
本来はDL(ダウンリンク)もUL(アップリンク)も測定するのですが、今回は4Kの配信をロボットから行う想定なのでULのみを測っていきます。
さらにRSRP、SINR、RSRQ、MIMO、変調をメモして行きます。
(今回はULを重点的に見るということにしましたが、場合によってはアンテナからのRSRPが良くても端末側からアンテナに送る電波が届かずに通信できない場合なんてのもあるのでULを重点的に見る場合は注意してください)
ラボ内が終わったら各ポイントも測定して結果を見てみます。
スルー |
RSRP |
SINR |
RSRQ |
MIMO |
変調 |
|
ラボ内 |
327Mbps |
-76dBm |
30dB |
-11dB |
2x2 |
64QAM |
Point1 |
262Mbps |
-93dBm |
21dB |
-11dB |
2x2 |
64QAM |
Point2 |
314Mbps |
-84dBm |
27dB |
-11dB |
2x2 |
64QAM |
Point3 |
316Mbps |
-70dBm |
30dB |
-11dB |
2x2 |
64QAM |
Point4 |
315Mbps |
-80dBm |
30dB |
-11dB |
2x2 |
64QAM |
Point5 |
304Mbps |
-94dBm |
25dB |
-11dB |
2x2 |
64QAM |
このような数値になりました。
スループットはそこまで大きな変化はなく、遮蔽物のあるpoint1でRSRPがラボ内と比べて下がっているもののスループットには影響がない範囲ということでした。
他のところでもこの程度の数値であれば同程度のスループットは出るかもしれません。
MIMOや変調方式も色々切り替わるのであればともかく、2×2MIMO、64QAMと動かないので安定して速度が出ると判断していいかと思われます。
このようにして判断基準を決めつつ適切にポイントを見て測定をしていきます。
ポイントは少なすぎても状況が判断できないですし、多すぎると測定も大変になるので適切なポイント数を最初に想定するのがコツになります。
そして測定を行ったら結果を元に結論をつけなければなりません。
今回の想定はロボットの配送を4Kリアルタイム監視すること、複数台の動作を予定しています。
4K動画を端末から送信するのに仮に40Mbpsが必要だったと見積もって、今回の結果から「4K監視自体は問題なし。複数台運用を行うとして同時6台まで同一エリア内で運用可能」と結論を出すのが良いでしょう。
3. まとめ
今回の記事はローカル5Gの導入を考えてらっしゃる方にとってなかなか馴染みがなく苦労するだろうと思われるエリア関係について記載してみました。
今回の電波状況の測定については基礎部分となっていて、広域になればハンドオーバーを行う想定の場所での測定が必要になったり、建物遮蔽や近隣への干渉についても測定を行わなければなりません。
ただ、基礎がわかればハンドオーバーでは何を見るべきか、近隣の干渉については何を見るべきか、測定結果によって何を結論付けてどうサービスへの影響を考えるか、ということが状況によって判断できるようになるため基礎は大事になります。
もしエリア測定でお困りの場合は、弊社にお問い合わせいただければエリアの調査、設計を致します。
また今回のコラムに使用したK5G-C-100Aについても販売を行っておりますのでご興味ございましたら是非お声がけください。
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