ローカル5G導入の鍵を握る 〜通信パラメータの設計指針〜

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1. 情報が少ないローカル5Gパラメータの世界

ローカル5Gに関心を持つユーザーや導入を検討する企業が増える一方で、実運用に不可欠な「通信パラメータ」に関する情報はまだ一般的なユーザー向けにはネット上で十分な情報を見つける事は難しい状況です。特に、基地局とUE(ユーザー機器)の関係を制御するパラメータについては、公開された情報が少なく、導入・設計に悩む技術者も多いのが実情です。今回のコラムでは、その中でも「UEが圏内・圏外をどのように判断しているのか」に焦点を当て、現場で使える知識としてのパラメータ解説を行います。

2. 通信挙動を決めるのは基地局からの情報

ローカル5Gに限らず、モバイル通信においてUEの挙動は基本的に基地局側が送出する各種パラメータによって制御されています。代表的なものとしては、ハンドオーバーに関係するA1〜A5のイベント関連パラメータや、UEの送信出力制御に関するパラメータがあります。これらは、システム設計時のポリシーや運用目的に応じて適切に設定・調整される必要があります。

3. UEが「圏内」と判断する基準とは

UEが基地局の電波を捉え、「ここに接続してもよい」と判断するには、その前段階として基地局から送信されるSIB(System Information Block)情報の受信が前提となります。特に、SIB1は全UEに共通で報知される重要なパラメータ群を含み、その中にある各種閾値設定が、UEの圏内・圏外判定の基本になります。UEは、あらかじめ搭載されているバンドの周波数をスキャンし、RSRP(受信電力)、RSRQ(受信品質)、SINR(信号対干渉雑音比)といった無線品質を測定します。これらが基地局側で定めたしきい値以上であれば、そのセルへのレジストレーション(接続)処理が進みます。しきい値の設定は、運用者がセルの設計思想に基づいて柔軟に調整可能です。

4. 電波設計におけるトレードオフ

SIB1で設定される無線品質のしきい値は、高品質な通信を実現したい場合には高めに設定される傾向があります。たとえば、大容量の映像を安定して伝送したいケースでは、SINRなどを厳しめに設定し、強電界エリアを確保する必要があります。この場合、十分なカバレッジを実現するためにRU(無線ユニット)の設置台数を多めに計画する必要があり、コストも上昇します。

一方で、軽いデータ通信が中心で、なるべく広く圏内にしたいというニーズであれば、しきい値を緩和し、弱電界でも接続できる設計とすることで、RUの数を減らし、初期投資を抑えることが可能です。ただし、この場合は1セルに収容されるUEの数が増える傾向があるため、基地局が同時に処理できる接続数やトラフィックリソースの確認が必要となります。

5. 導入前にこそ求められるパラメータ設計の対話

このように、一つの無線パラメータをとっても、通信品質・カバレッジ・コスト・収容数といった多くの要素と密接に関係しており、導入設計時には様々なトレードオフを検討する必要があります。したがって、ローカル5Gを導入する際には、「どこで、どれくらいの通信品質で、何台のUEを使いたいのか」といった利用条件を明確にしたうえで、SIer(システムインテグレーター)と密に相談しながらパラメータ設計を行うことが肝要です。

見過ごされがちな通信パラメータこそ、ローカル5G導入の成否を分ける要素です。安定した運用と満足度の高い通信体験を実現するために、ぜひこの視点を持って設計に取り組んでいただきたいと思います。

弊社では長年の通信事業で培った経験をもとに、エリア設計からパラメータ最適化までお客様より十分なヒアリングを行った上で設計に反映し、お客様の目的に合った提案を致します。

最後までご覧いただきありがとうございました。