目次
1. RedCapとは何か? 〜5Gの新たな選択肢〜
5Gの特長といえば、高速・大容量、超低遅延、多数同時接続といった特性が挙げられますが、これらすべてを必要としないデバイスや用途も少なくありません。こうしたニーズに応える形で登場したのが「RedCap(Reduced Capability)」です。
RedCapは、5Gの標準仕様の一部として3GPP Release 17で定義された軽量版の5Gデバイス向け仕様です。スマートウォッチや各種センサー、監視カメラなど、そこまで高い性能を必要としない中低速・低電力な通信機器向けに設計されています。これにより、5Gの利用シーンがさらに拡大し、多様なユースケースに対応できるようになります。

※総務省 新世代モバイル通信システム委員会技術検討作業班 2024年7月30日資料より
 https://www.soumu.go.jp/main_content/000959653.pdf
2. RedCapの技術的特徴とその意義
RedCapは、既存のフルスペックな5G(FR1)と比較して、帯域幅・アンテナ数・スループットなどが制限されています。例えば、RedCap端末の最大帯域幅は20MHz(または100MHz未満)に抑えられており、MIMO(複数アンテナ)も1送信・1受信に限定されるなど、物理層の構成が簡素化されています。
このような制約によって、RedCap対応機器は消費電力が低く、構成がシンプルなため、製造コストも低く抑えることが可能です。RedCapは既存規格であるLTE Cat.M1やCat.1ではカバーしきれなかった「中〜中高速通信」領域を補完する存在です。動画を伴う監視用途や、より応答性が求められる制御通信などで、RedCapが活躍する余地は非常に大きいと言えるでしょう。
以下に、RedCapとLTE Cat.1/Cat.M1の主要スペックを比較した表を示します。
RedCapとLTE Cat.1/Cat.M1の比較表
| 項目 | LTE Cat.M1 | LTE Cat.1 | RedCap(5G) | 
| 最大下り速度 | 約1Mbps | 約10Mbps | 数十Mbps(理論値で最大150Mbps程度) | 
| 最大上り速度 | 約1Mbps | 約5Mbps | 数十Mbps | 
| 周波数帯域 | 最大1.4MHz | 最大20MHz | 最大20MHz(または100MHz未満) | 
| アンテナ構成 | 1Tx/1Rx | 1Tx/2Rx | 1Tx/1Rx(MIMOなし) | 
| 対応ネットワーク | LTE(4G) | LTE(4G) | 5G NR(FR1) | 
| 遅延 | 数百ms | 数十ms | 数ms〜十数ms | 
| 消費電力 | 非常に低い | 中程度 | 低い | 
| 主な用途 | センサー、メーター | 軽量監視カメラ、音声通信 | スマートウォッチ、産業用センサー、監視カメラ | 
| ネットワーク導入の将来性 | 4Gインフラに依存 | 4Gインフラに依存 | 5G普及とともに拡大 | 
| グローバル導入動向 | 広く普及 | 広く普及 | 2025年以降本格化 | 
3. RedCapがもたらす新たなユースケース
RedCapは、特に産業・ヘルスケア・ウェアラブル領域での活用が期待されています。
以下はその具体例です:
- 産業用IoT:製造ラインやインフラ監視など、高い信頼性とある程度の帯域が必要な用途に最適。
- ウェアラブルデバイス:スマートウォッチやARグラスなど、コンパクトで低電力な通信を必要とする機器にマッチ。
- モバイル監視カメラ:超高画質までは不要な映像監視用途に適し、デバイスの小型化により移動体等にも搭載しやすい。
特に注目すべきは、通信速度をそれほど必要としないデバイスにおいて消費電力が抑制されることにより、IoTデバイスの実用性が向上します。
4. RedCap導入に向けた国内外の動向
世界では2024年からRedCapチップやデバイスの商用化が本格化しており、通信事業者や機器メーカーがRedCap対応ネットワークや製品の実証を進めています。
海外では、中国のChina MobileやEricssonなどが協力しRedCapによる産業用ロボットやスマート製造向けのユースケースを実証しています。また、欧州ではVodafoneがRedCap対応IoTデバイスのデータ通信を成功させています。
一方、日本では、総務省が発表した技術的条件案に基づき、各通信事業者とともに国内導入に向けた制度整備が進行中です。ローカル5Gにおいても今後RedCap規格を利用した実証実験が行われ、中小企業向けソリューションの拡大することが期待されています。
5. RedCapが広げる5Gの未来
RedCapの登場により、5Gは「高速・高価・高機能」というイメージから、「用途に応じて選べる柔軟なネットワーク」へと進化を遂げようとしています。これまでコスト面や電力面で5G導入が難しかった現場にも、RedCapが選択肢を提供することで、5G普及の裾野は確実に広がるでしょう。
また、ローカル5Gの構築コストを抑えながら、多様な端末を収容できる点でもRedCapは魅力的です。まさに、RedCapは"つなげることの最適化"を目指す新たな通信インフラの鍵となる存在です。
最後までご覧いただきありがとうございました。
 
      
 
               
               
               
               
               
               
               
              