5Gのデータのやり取り_同期と準同期

  • ローカル5G

最終更新⽇:

掲載⽇:

1. 同期と準同期って何だろう

皆さんは同期、準同期という単語のセットを聞いたことがあるでしょうか。ローカル5Gに興味を持たれている方はおそらく聞いたことのある単語だと思います。
例えばスループットの話をしている時に「弊社の機器は準同期でダウンロードのスループットが1Gbps出るんですよ!」みたいな感じで会話に出てくることも珍しくありません。
今回は会話にもよくでてくる同期、準同期について解説をしていきます。
「5G 同期 準同期」なんていうワードでWeb検索をすると色々解説サイトが出てくると思いますが、それらを読んでもよくわからんという方は是非ご一読いただければ幸いです。
実際に機器を操作して同期、準同期の設定変更をしてスループットテストも行いますので興味のある方はご覧ください。

2. 同期 準同期を知る

2-1. 同期・準同期とは

そもそも同期・準同期とは何でしょう。

同期、準同期を理解するにはまずTDD(Time Division Duplex:時分割複信)を知る必要があります。
TDDとは簡単にいうと電波の送信と受信の電波を扱う仕組みの一つです。
基本的に移動体通信では受信と送信の電波を分けて同時に行う事で送受信を行っています。利用者が同時に送信できることを複信といいます。
複信と言われるとイメージしにくいと思うので電話を想像してみてください。電話は同時にお互いが喋る事が出来ます。これは互いに音声を送信している状態なので複信に当たるわけです。
TDDのDuplexは電話のような通信のやり取りをしている意味を表します。
そして移動体通信の世界ではFDD(Frequency Division Duplex:周波数分割複信)と対になって語られることが多いです。
FDDのほうがイメージしやすいと思うので、まずFDDの事から紹介します。
FDDは送信、受信の電波を周波数で分けて管理をします。例えば通信の為に4800~4900MHzを使えるとして、4800~4850MHzを送信用、4851~4900MHzを受信用に分けるような方法です。名前の通り周波数を送受信で分割して複信を行うということですね。
そしてTDDですが、TDDは日本語に直すと時分割複信です。つまり周波数ではなく時間で送受信を分ける方法になります。
FDDと同じ例えを使うと、4800~4900MHzの周波数帯を使用して通信を行うときに受信を行う時間と送信を行う時間を分けて送受信を管理します。
イメージしやすいように言うと、1秒を10分割、つまり1.0秒、1.1秒、1.2秒、1.3秒と数えるときに奇数秒は送信、偶数秒は受信を行うような感じで、送信も受信も4800~4900MHzを使うので周波数を送信用受信用と分けることはありません。時間で分割するということです。
実際はFDDにはガードバンドという余白が必要だったりTDDももっと細かく分割するのであくまでイメージとして捉えてください。

local5g_vol0010_01.png

基本的にローカル5GはTDD方式で運用されています。

TDDの時間で分割する方式ですが、FDDと違って送信受信が同じ周波数で行われる為、送信のタイミングや受信のタイミングが違ってしまうと隣のエリアから出ている受信の電波と今いるエリアの送信の電波のタイミングが重なってしまって干渉が発生することが考えられます。
そして5Gは受信と送信のタイミングをマイクロ秒レベルで定義されており、皆が同じタイミングで送受信する通信を「同期」というわけです。
つまり干渉を考慮して皆同じ時間で送受信を分けようねというものですね。
皆で同じタイミングで行う為、送信と受信の比率が決まっていて、UE(端末、スマホ側)からみて受信の比率が多くなっています。
これはパブリック5Gのユーザの多くが受信のほうを使う為です。
しかしローカル5Gは多くの用途で送信、つまりUpLinkを使用します。例えば自動運転ロボットに4Kカメラを搭載してリアルタイムで動向を監視するといった使い方や、遠隔運転の際の周辺確認の為のカメラ画像の転送などの使い方ですね。

こういった用途に応えるべく作られたのが「準同期」になります。
パブリック5Gとパターンは違うけどローカル5Gの用途に合わせて送信側の比率を上げたパターンを作ろうねというものです。

local5g_vol0010_02.png

(出典)令和2年5月20日 総務省 総合通信基盤局電波部 移動通信課
資料15-3 ローカル5G検討作業班報告書 概要(案) 10ページ

上記の画像の「4.7GHz帯準同期TDD」とある下に表のようなものが載っています。
DとかUとかいっぱい書いてありますがDがDownLink、UがUpLinkを表します。
TDDパターン1と記載のあるのがDownLink、つまり受信側に寄っているパターンになっていて、パターン2は1に比べてUpLinkが多くなっている、つまり送信側に電波を割り当ててるパターンとなります。
これが「同期」「準同期」と言われるものになります。

今後はさらに送信側に偏ったパターンも検討されているようです。

local5g_vol0010_03.png

(出典)令和3年4月 総務省
別紙2 課題解決型ローカル5G等の実現に向けた開発実証 令和3年度実施方針

2-2. 実際に設定してみる

小難しくて長い文章は読むのがめんどくさいので実際に同期・準同期を切り替えたらどうなるのか見たい!という方も多いと思うので私たちのラボで実際に実験をしてみました。

まず現在の設定を見てみます。
ローカル5Gは無線局免許を取得する必要があり、免許取得時に同期での運用なのか準同期での運用なのかも決めなければなりません。
私たちが取得した無線局免許は準同期で申請をしていますので現在は準同期設定になっています。

local5g_vol0010_04.png

黄色の枠内が現在の設定です。
QCT製のOmniPODであればGUIで簡単に今現時点の設定が確認できます。
またすでに同期、準同期パターン1~3も設定されている為変更も容易です。

local5g_vol0010_05.png

まず今のスループットを確認してみます。
スループットの計測ですが簡単に条件を書いておきます。
 使用端末:K5G-C-100A
 RAN側設定:DL256QAM、4x4MIMO、UL64QAM、4x4MIMO

local5g_vol0010_06.png
今回はスループットの表示もQCTのOmniViewで行ってみます。
今は準同期なのでDL(DownLink)が700Mbps程度、UL(UpLink)が310Mbpsぐらいです。
では設定を同期設定に変更してみます。

local5g_vol0010_07.png

先ほどは表記が「DDDSUU DSUU」とUの表記が多くありましたが「DDDSUU DDDD」に変更になりました。
Dの比率、つまりDLが多くなったパターンに変更というわけですね。
シールドルーム内での作業に切り替えて実験を続行します。
条件は準同期パターン1を同期に変えて他は同じ条件でテストをしてみます。

local5g_vol0010_08.png

今度はDLが約1Gbpsになりました。その分ULの数値が150Mbps程度に下がっています。
単純にDLの割り当てが多くなったのでその分の速度が上がったわけですね。
このように設定を変更するだけでスループットの上限値が変わる為、ローカル5Gを使ったサービスを検討するときは送信を多用するのか、受信を多用するのかを見極めなければなりません。

3. まとめ

普段ローカル5Gって何?というのを調べていると出てくる同期、準同期について記載をしてみました。
同期、準同期はローカル5Gを扱う上で非常に大事な要素になります。
同期、準同期に関しては色々な解説サイトがある中でこのコラムも理解の一助になれば幸いです。

私たち京セラみらいエンビジョンで取り扱っているQCT製のOmniPODは今回の例でもささっと設定変更をしたような画像を掲載しましたが、取り扱いが非常に簡単です。
ラボ見学を申し込みいただければEMSであるOmniViewも御覧いただけますので、是非興味がございましたらラボまでお越しいただければと存じます。