目次
1. エンドツーエンドで考える映像伝送ソリューションの重要性
映像伝送システムにおいて「低遅延」を実現することは、リモート医療、ライブ中継、自動運転など多くの分野で不可欠です。しかし、技術の進化に伴い、システムの一部分に注目するだけでは不十分な場合も増えています。特にローカル5Gを活用する映像伝送システムにおいては、ローカル5Gによる通信インフラだけでなく、エンドツーエンドでの設計がパフォーマンスを大きく左右します。今回は、システム全体を見渡した遅延要因の理解と、それに基づく解決策について考察します。
2. 遅延の複合要因を見極める
映像伝送システムとしての遅延は、複数の要因が絡み合っています。ローカル5Gの低遅延特性やコーデックの進化に目が行きがちですが、これらに加え、以下のような周辺要素も大きな影響を与えます。
1. ローカル5Gシステムの遅延
ローカル5Gは、超低遅延通信が可能な技術として注目されています。しかし、実際にはローカル5Gシステム機器のスペック上の遅延特性だけでなく、ネットワーク内の経路設計や無線区間の電波の強さや変調方式といった要素も影響を及ぼします。これらを正確に測定し、最適化することで初めて最大限の性能を発揮します。
2. コーデックの遅延
映像を圧縮・復元するプロセスでは、エンコードとデコードに要する時間が発生します。特に高解像度の映像では、処理負荷が増加するため、使用するコーデックの選択が遅延の短縮に直結します。
3. カメラの撮影・処理遅延
高性能カメラであっても、映像信号を生成する過程で一定の遅延が生じます。特に、映像の安定化やノイズ除去といった処理を行うカメラでは、追加の遅延が発生することがあります。映像の品質向上と遅延低減のバランスの見極めが重要です。
4. ケーブルやスイッチング機器の伝送遅延
映像信号を伝送するケーブルやスイッチング機器は、一見無視できる程度の遅延しか発生しないように思えますが、複数の機器を経由する場合には積み重なってシステム全体に影響を及ぼします。高品質なケーブルと最適なスイッチング機器の選定が必要です。
5. モニターの表示遅延
最も見落しがちな要素として、映像信号を視覚化するモニターの応答速度も大変重要な要素です。特に、4Kや8Kといった高解像度ディスプレイでは、画素数が多い分、映像処理に時間がかかることがあります。早い応答性能を持つモニターの選定が、システム全体のリアルタイム性に貢献します。ゲーミングモニターといわれる商品は、応答速度が比較的早いものが多いようです。

3. ユースケースでのエンドツーエンドの視点
例えば、遠隔医療では、手術中の映像を限りなく遅延を少なく共有することが重要です。このような状況では、通信の遅延を抑えたとしても、カメラの撮影遅延やモニターの表示遅延がシステム全体の応答性を損なう可能性があります。同様に、スポーツ中継やライブ中継では、実際のプレーや動きと映像との差分が小さいほど、映像で得られる臨場感は向上します。
また、クレーンなどの重機やフォークリフト、ドローンなどの遠隔制御においては、リアルタイムでの操作が求められるため、遅延の大きさが安全性に直結します。さらに、製造業の現場では機械やラインの動きを監視・制御するための映像が遅延なく伝送されることで、生産効率を向上させるだけでなく、事故や不具合の早期発見にも繋がります。これらのユースケースを通じて、エンドツーエンドでの遅延管理がいかに重要であるかが明らかです。
4. エンドツーエンドで考慮すべきポイント
低遅延映像伝送システムを設計する際には、次のポイントを重視する必要があります。
1. 包括的な遅延測定
システム全体の遅延を可視化し、ボトルネックとなる箇所を特定することで、効率的な対策を講じることが可能です。例えば、ローカル5G区間での遅延量が大きい場合は、無線環境を見直す為にアンテナの方向や角度を変更することで改善が期待できます。また先述のとおり、出力部分のモニターを見直すことも効果的な場合があります。
2. 適切な機材の選定と配置
ネットワーク機器、映像処理機材、表示装置の全てがシステム全体のパフォーマンスに寄与します。遅延特性だけでなく、工事現場での重機遠隔操作であれば装置の耐振性能や防水防塵性能も重要となりますし、最終的なコストとのバランスも考慮した機材選定が求められます。
3. 包括的な最適化
最終的にシステム全体の遅延と映像品質のバランスを最適化し、システムを使う現場に落とし込むことが必要です。例えば8Kの高品質映像や、映像にブロックノイズが出ないなど映像品質を重視するユースケースの場合は、コーデックシステム上でバッファリングを大きくとることで安定した品質となりますが、遅延量は大きくなります。求める映像品質と遅延量の最適値を調整することが重要です。
5. 結論
映像伝送ソリューションにおいて「低遅延」を実現するためには、ローカル5Gやコーデック技術だけに注目するのではなく、エンドツーエンドでシステム全体を最適化する視点が欠かせません。カメラやモニターといった周辺機器の遅延要因にも目を向けることで、真にリアルタイム性の高いソリューションが実現できます。
ローカル5Gの技術は、映像伝送の未来を切り拓く鍵となります。しかし、その可能性を最大限に引き出すためには、システム設計者やエンジニアが「全体最適」の視点を持ち続けることが不可欠です。次世代の通信インフラを基盤に、映像伝送技術の新たな可能性を追求していきましょう。
弊社では、ローカル5Gシステムの提供だけでなく、各ソリューションパートナーとともに、お客様に最適なソリューションを提供しています。ご相談いただければ、さまざまなニーズにお応えできます。お気軽にお問い合わせください。